朝、加藤ナースが
寝室に飛び込んで来て
あはははは
なんで！パンツ一丁で寝てるの！
早く起きて！
間に合わんよ
え！やば！
目覚ましかけたになぁ
電話したら元気に起きてたやん！
寝ぼけてあんなに元気に返事するなんか信じらんわ
あはははは
二度寝したんやな
飛び起きて
黒いストッキング履いて
片方を犬に引っ張られて
ギャーギャー言ってる私を見て
加藤ナースは大笑いしてたけど
気持ちの方向は勇気が滲んでた
寝ぼけながらも早朝から喪服を着ながら
加藤ナースの勇気が悲しみに負けたとしてもまた希望に代えてやるぞ！と思った
葬儀屋さんに居るＹさんのお顔を見て
お別れをしないと私達は納得できないだろうと口にしないでもわかっていた
でも、加藤ナースが見届けたいようで
最も見たくなかった長い間のＹさんへの看護のラストだとも知っていたから
他の事で気を紛らわしてる私達二人の訪問看護師の様子だったと思う
突然昨夜、Yさんが施設で旅立った事を知った
Ｙさんご夫婦の認知症同士の老老介護生活をしてるのにケアマネさんと共に限界を感じながら
ご夫婦が譲らない自宅生活をサポートしてきた
今年に入り転倒で入院したＹさんは
入院で認知症が進み、施設入所になった
私達はこれで良かったのだと
本当は自宅で私達が最後の時を見届けたかった看護に終止符を打った
子育手と同じく
介護も手向けた分だけ最後まで見届けたい想いは募る
手放すきっかけは私達から出来るはずもなく、こうやって訪れてくれる事が何よりの安堵感となる
施設なんかには入らんぞ
最後まで此処であなた達と居る！
ケアマネさんや遠方の子供達にも
言い続けたＹさん夫婦への人への愛情は
私達にとって家族のように思えてくる
加藤ナースの孫が生まれたと聞けば
病院に曾孫に会うような顔で訪れたし
認知症でままならないことへの不安や苛立ちも私達に怒って電話してきたし
様々な事がこの数年間にあった
それでも
どの場面でも加藤ナースが現れると
穏やかに柔らかい表情に変化して
まるで娘に叱られた後のように
素直に謝るのを見ると
私達は愛さずにいられなかった
いつの頃からか
緊急電話に出たその日の担当携帯のナース達の名前を聞く間も無く
加藤さんはいるかい？
と名指しで真っ先に言う声に
誰もが笑みを溢した
人を頼る
頼られる
の裏には凄まじい信頼感の一本の光がなければ人は簡単には頼らないのを知ってる私達はＹさんの心の中を可愛く思えて仕方なかった
パパちゃん
ママちゃんと呼ぶ様になるのに
さほど時間はかからなかった
たくさんの笑いとハプニングとハラハラチャレンジと落胆とそして
私達が叱ってみせる
訪問看護の在り方への挑戦が詰まっていた看護だった
何年か前に
市役所での連携会議さながらのケースカンファでは
堂々と加藤ナースさんと主治医が
色々とこうすべきではないか
何故こうしないのかというような
他職種の質問に
精一杯やっています！
やれることは全てしてますから
と言い
いけるところまでご自宅で過ごさせます！
と言い切った姿はカッコ良かった
まるで、つべこべ言うな
現場に来てみろ！
現場が決める！と言っているように聴こえて
聴衆席に座っていた当社のナース達は誰もがスカッとした瞬間だった
そして、またこれからもやってやるぞと
いきり立った
次の日からは、遂げさせる想いと
退ける想いが巴になって
支援に熱が増して行った
迷わないで良い看護に切り替わるのさえ
味合わせてもらえた看護展開は
その後の当社の看護の在り方を大きく成長させた
思えば私達が
何かを削ぎ落とした
枝葉の看護理念を捨てられた
Ｙご夫婦からの指導をもらえたのだろうと思う
あれから当社の看護は一気に力強いものと変化した気がしている
訪問看護の壁と言われた
様々な方向性意見の連携の中で
介護は看護はと分類される部分の多い
在宅支援の変なルールみたいなズレを払拭できるのは現場の選択だと言い切れるものが手に掴めた
それから私達は口にするようになった
介護保険の中にしっかりと
書かれている
特例に対しという文言を掴めたのだと思う
